ショパンの名曲「革命のエチュード」。その情熱的なメロディに憧れを抱きつつも、圧倒的な難易度が高そうだと、挑戦をためらっている方も多いのではないでしょうか。
同じショパンの有名曲である幻想即興曲との難易度の違いや、弾けるようになるまで一体何年かかるのか、気になるかたもいるかもしれません。



この記事では、そうした疑問に答えるため、様々な客観的データや具体的な練習方法を基に、筆者の実体験も交えながら「革命のエチュード」の難易度を詳しく解説します。
こんな方におすすめ
- 「革命のエチュード」の難易度を客観的な指標から知りたい
- 幻想即興曲とどちらにしようか迷っている
- 自分が挑戦できるレベルか、習得期間の目安を知りたい
- おすすめの楽譜や曲の背景、魅力について深く知りたい
ショパン 革命のエチュードの難易度とは?客観的な指標で解説
- 全音ピアノピースでの難易度評価は最高のFランク
- ヘンレ版では9段階中8の上級評価
- ピティナやカワイ音楽教室での位置づけ
「革命のエチュード」の難易度がどれほどのものか、まずは客観的な評価指標から見ていきましょう。国内外の主要な音楽出版社や教育機関は、この曲を一様に最上級レベルとして位置づけています。
全音ピアノピースでの難易度評価は最高ランク「F」
「革命のエチュード」は、ピアノ学習者にとっておなじみの全音楽譜出版社の難易度分類で、最上級レベルの「F(上級上)」にランク付けされています。
これは、全音が出している数多くのピアノピースの中でもトップクラスの難しさを誇ることを意味しています。
特に注目すべきなのは、「幻想即興曲」などが属するEランク(上級)からFランクへのステップアップは、単なる1段階の違いではないということ。
実際、Fランクの曲は技術的にも体力的にも一気にハードルが上がるため、Eランクの曲を弾けたからといって、すぐにFランクの曲が弾けるわけではありません。
それだけに、「革命のエチュード」を弾けるようになるというのは、ピアノ学習者にとってひとつの大きな到達点といえるかもしれませんね。

ヘンレ版では9段階中8の上級評価
ドイツの権威ある原典版出版社であるヘンレ(G. Henle Verlag)は、独自の9段階評価システムを採用しています。その中で「革命のエチュード」は、9段階中「8(difficult)」と評価されています。
最難関が「9」であることを考えると、国際的にも極めて高度な技術を要求される上級作品であることがわかります。
ただし、ヘンレ版の高レベル帯(7~9)は非常に幅広い難易度の楽曲を含んでいるため、「8」という数字は「非常に難しい曲」という大きな括りとして捉え、その評価に至った具体的な技術的課題に目を向けることが重要です。
ピティナやカワイ音楽教室での位置づけ
日本国内の主要なピアノ教育機関でも、この曲は最上級に位置づけられています。
ピティナ(全日本ピアノ指導者協会)では、23ステップレベルの「展開」という最上級クラスに分類され、コンペティションでも特級レベルで採用されるなど、ハイレベルなピアニストの基準曲となっています。
また、カワイ音楽教室の教材でも「上級」に分類され、ピアノ演奏グレード5級の課題曲としても採用されており、上級カリキュラムの到達目標の一つであることが示されています。
革命のエチュードの技術的な難しさ
- 左手に求められる圧倒的な持久力と正確性
- 右手の力強いメロディとリズム感
- 響きとドラマ性を生むペダリングと音楽表現
客観的な評価が「最上級」であることは分かりましたが、具体的に何がそれほど難しいのでしょうか。その核心は、左手、右手、そして音楽表現の三つの側面にあります。
左手に求められる、圧倒的な持久力と正確性
この「革命のエチュード」を特徴づけている最大のハードルは、ほぼ曲全体にわたって休みなく続く左手の16分音符の流れです。
これを乗り越えるためには、単に指が速く動けばいいわけではありません。腕全体を使った効率的な動きがとても大切になります。
ポイントは、一音一音を細かく弾くというよりも、音のまとまりをとらえて、腕ごと素早くポジション移動すること。いわば「腕主体」で弾くアプローチです。
練習を始めるときは、音名を声に出しながらゆっくり弾くことや、メトロノームに合わせて正確なリズムを身体に覚えさせることが、のちの成功につながります。
右手の力強いメロディとリズム感
左手の華やかさに目を奪われがちですが、右手が担う和音のメロディもかなりの難所です。
轟く左手の上に、右手のメロディをはっきりと、歯切れよく響かせることが求められます。特に付点リズムや休符は、油断するとすぐに崩れてしまうので、ここでもメトロノームを使った地道な練習が役立ちます。
また、オクターブや大きな和音が多く登場するので、手の小さい人にとっては物理的にきつく感じる場面もあるかもしれません。
響きとドラマ性を生むペダリングと音楽表現
この曲は、ただの速弾き用のエチュードではありません。ペダルの扱い方によって、曲全体の印象が大きく左右されます。
特に左手の音が密集しているため、踏みすぎるとすぐに響きが濁ってしまいます。浅くこまめなペダルの踏み替えといった、細やかなテクニックがとても重要になります。
そしてなにより大切なのは、この曲に込められたドラマをしっかりと表現すること。
力強いアクセント、張り詰めた静けさ、爆発するようなクライマックス…。幅広いダイナミクス(音の強弱)をつけて、フレーズに命を吹き込むことで、聴く人の心を動かす演奏が生まれます。
幻想即興曲と比較して難易度はどっちが上?
- 結論:革命のエチュードの方が総合的に難しい
- ショパンエチュード全24曲の中でのランキング
結論:「革命のエチュード」の方が、総合的に難しい
上級者向けの人気曲として、よく比較されるのがショパンの「幻想即興曲」と「革命のエチュード」です。
先ほども紹介したように、全音ピアノピースでは「幻想即興曲」が Eランク(上級)、それに対して「革命のエチュード」は Fランク(上級のさらに上) に分類されています。
さらに、ヘンレ版の難易度でも、「幻想即興曲」が 7/9、「革命」は 8/9 と、どちらも高難度ですが、「革命」がより上の評価を受けています。
両者の難しさのタイプは異なります。「幻想即興曲」は、右手と左手のリズムの違い(ポリリズム)をいかに調和させるかが鍵となる「協調性重視」タイプ。
「革命のエチュード」は、ほぼ休みなく続く左手の動きをいかに保ち続けるかが課題となる「体力重視」タイプ。
発表会などでは、「幻想即興曲」の方が選ばれることが多い印象がありますが、これは「革命のエチュード」の方がミスが目立ちやすく、ごまかしが効かない曲だからかもしれません。
その分、演奏が決まったときのインパクトは絶大。テクニック・体力・表現力のすべてが試されるという意味で、「革命のエチュード」はまさに総合力が問われる一曲です。
ショパンエチュード全24曲の中での位置づけ
ショパンが作曲した全24曲のエチュードの中で、「革命のエチュード」は最難関グループへの入り口と位置づけられています。
Op.10-1やOp.25-6(3度のエチュード)のような技術的な頂点に立つ曲々には及ばないものの、Op.10-6やOp.25-2のような比較的取り組みやすい曲よりは遥かに難しい、「上級・難曲」層に属します。
挑戦しがいのある難曲でありながら、さらなる高みを目指す上での試金石となる作品です。
弾けるようになるまでの期間と条件
- 挑戦できる人のレベルは?前提となる曲
- 習得まで何年かかる?練習期間の目安 中学生でも弾ける可能性はある?

挑戦できる人のレベルは?目安となる曲
「革命のエチュード」に挑戦する前に、一定の技術レベルに達していることが望ましいです。一つの目安として、ソナタ・アルバムレベルの楽曲、特にベートーヴェンの「悲愴ソナタ」などを不自由なく弾きこなせる実力が挙げられます。
また、バッハのインヴェンションやシンフォニアを学習し、左手の独立性を高めておくことも強く推奨されます。リストの「ラ・カンパネラ」のような、他の高度な技巧曲を経験していることも、準備が整っている良い指標となります。
習得まで何年かかる?練習期間の目安
「革命のエチュード」を弾けるようになるまでにかかる時間は、人それぞれ。もともとの技術レベルや練習量によって大きく変わってきます。
たとえば、ソナチネレベル(ブルグミュラーを終えたくらい)の学習者がこの曲に挑める段階まで到達するには、おおよそ2~4年程度の基礎的なトレーニングが必要とされています。
さらに、挑戦できるだけのレベルに達してからも、毎日1〜2時間の練習を継続して数か月~1年ほどかけてようやく完成度が高まる、という見方をする先生もいます。
焦らず、じっくり取り組むことが何より大切です。
中学生でも弾ける?
ごく少数ではありますが、中学生でもこの曲を弾ける人はいます。たとえば、ピアノコンクールで入賞するような、毎日しっかりと練習を積み重ねている一部の中学生であれば、技術的に対応できる可能性はあります。
ただし「革命のエチュード」は、ショパンの怒りや絶望といった深い感情が詰まった作品です。ただ正しく音を並べるだけでは、この曲が持つドラマ性や訴える力はなかなか表現しきれません。
本当にこの曲を「音楽として」伝えるには、ある程度の人生経験や、音楽に対する深い理解が求められます。これは中高生にとって、ちょっとハードルが高いかもしれません。
ですので、もし中学生で「革命のエチュードを弾きたい!」と思っても、もし技術的にかけはなれているようなら、焦らずに、今の自分のレベルに合った曲を丁寧に仕上げていくことがとても大切。
そうすることで、いずれ自然に、心と技術の両方が追いついて、大曲にもふさわしい演奏ができるようになりますよ。
なぜ人を惹きつけるのか?革命のエチュードの魅力と背景
- 曲に込められた歴史とショパンの想い
- 映画やドラマで使われる理由とその影響
曲に込められた歴史とショパンの想い
この曲が「革命」と呼ばれる背景には、ショパンの祖国ポーランドへの深い想いが関係しています。1831年、演奏旅行で故郷を離れていたショパンは、ワルシャワで起きた独立のための蜂起がロシア軍によって鎮圧されたという報せを受けます。
その時の彼の怒りと絶望が、この曲を生み出したという逸話はあまりにも有名です。荒れ狂うような左手の激しいパッセージは、まさに彼の心の叫びそのものだと言われています。 しかし、近年の研究では少し違った見方もされています。
実は、この蜂起の結末を知る前から、すでにこの曲の構想はあったのではないか、という説です。もしそうなら、この曲は単なる絶望の表現ではなく、闘いの最中にあった祖国への「英雄的な活力」や「抵抗の苦しみ」を音にしたものなのかもしれません。
どちらの説が真実であれ、この曲がショパンの激しい愛国心から生まれたことは確かです。そのドラマチックな物語こそが、聴く人の心を強く揺さぶる最大の魅力と言えるでしょう。
映画やドラマで使われる理由とその影響
この曲の持つ、聴く人の感情をかき立てるようなドラマ性は、物語を盛り上げる音楽として映像作品の世界でも非常に愛されています。
特に日本でこの曲の知名度を決定づけたのは、1985年に放送された小泉今日子さん主演のTBS系ドラマ『少女に何が起ったか』でした。主人公がコンクールの課題曲としてこの難曲に挑む姿、特にクライマックスでの演奏シーンは、当時のお茶の間に強烈なインパクトを与え、多くの人の記憶に刻まれました。
近年でもその影響力は健在で、2024年公開の映画『サイレントラブ』やドクターデヴィアス化粧品のCMなど、様々な場面で起用されています。
苦悩を乗り越えようとする情熱や、常人離れした超絶技巧の象徴として、この曲は時代を超えて私たちの心に響く力を持っているようです。
こうした映像作品を通して、普段クラシック音楽に馴染みのない人々にも「革命のエチュード」の魅力が伝わり、広く愛されるきっかけとなっているのでしょう。
練習におすすめの楽譜はどれ?選び方を解説
- 原典版と教育版の違いとは
- 主要な楽譜の特徴(全音・ヘンレ・エキエル版)
楽譜のタイプには大きく2つがあるので、それぞれの特徴を知って自分に合ったものを選びましょう。
原典版と教育版の違いとは
楽譜には、作曲家の意図をできるだけ純粋に再現しようとする「原典版(Urtext)」と、有名なピアニストなどの編集者が練習方法や解釈のヒントを書き加えた「教育版(Pedagogical Edition)」があります。
例えるなら、原典版は「ショパンからの手紙そのもの」。余計な装飾がなく、彼が本当に書きたかった音符だけが記されています。だからこそ、音楽と深く向き合い、自分なりの解釈を築きたい上級者にとっては最高のテキストになります。
一方、教育版は「名ピアニストからの丁寧なレッスンメモ付きの手紙」。どう弾けば指がスムーズに動くか、どんな練習をすれば効果的か、といった貴重なアドバイスが満載です。
特に技術的な壁にぶつかった時には、心強い味方になってくれるでしょう。どちらが良い悪いではなく、自分の目的やレベルに合わせて選ぶのがポイントです。
主要な楽譜の特徴(全音・ヘンレ・エキエル版)
では、具体的にどんな楽譜があるのでしょうか?「革命のエチュード」でよく使われる代表的なものをいくつかご紹介しますね。
まず「エキエル版」は、楽譜界の権威とも言える存在。ショパン国際ピアノコンクールでも公式に推奨されており、研究者たちが考えられる限りの資料を基に作り上げた、最も信頼性の高い楽譜の一つです。まさに本物を追求したい人向けの決定版です。
次に「ヘンレ版」も、世界中のピアニストから愛されている信頼の厚い原典版です。青い表紙が目印で、楽譜のレイアウトが美しく見やすいことでも定評があります。学術的な正確さと実用性のバランスが良く、安心して使える一冊です。
そして、日本で最も手に入りやすいのが「全音版」でしょう。これは歴史あるパデレフスキ版を元にしており、昔から多くのピアニストに愛用されてきました。
私たちがCDなどで聴き馴染んだ演奏の多くが、この版を参考にしています。
理想的な使い方としては、エキエル版やヘンレ版のような信頼できる「設計図(原典版)」をメインに使い、練習に行き詰まった時には、伝説的なピアニスト、アルフレッド・コルトーによる「コルトー版」のような「攻略本(教育版)」を参照するのも非常におすすめです。
コルトー版には、この曲の難所を乗り越えるための独創的で具体的な練習方法が満載で、あなたの練習を力強くサポートしてくれますよ。
まとめ:革命のエチュードの難易度と習得への道筋
本記事のまとめ
- 革命のエチュードの難易度は全音Fランクでピアノ学習者の一つの到達点
- 技術的な課題は左手の圧倒的な持久力で体力重視の難曲
- 幻想即興曲よりも総合的に難易度が高くごまかしが効かない
- 挑戦の目安はベートーヴェンの悲愴ソナタを弾きこなせるレベル
- 弾けるレベルからでも完成には数ヶ月から1年以上の練習が必要
- 中学生でも挑戦は可能だが技術と音楽的な心の成長が大切
- 曲の魅力はショパンの祖国への想いが込められたドラマ性にある
- ドラマ『少女に何が起ったか』で知名度が上がり今もメディアで使われる
- 楽譜は原典版を「設計図」とし教育版を「攻略本」として併用するのがおすすめ
- 総合力が問われる大曲であり焦らずじっくり取り組むことが重要