映画『グリーンブック』は、ピアノが登場する名作映画のひとつで、実話を基にしたストーリーが描かれた作品です。実在の黒人ピアニスト、ドクター・ドナルド・シャーリーと、イタリア系白人運転手トニー・リップの南部ツアーを通じて、彼らの友情が深まる様子が描かれています。
印象的なシーンのひとつ、シャーリーが「今夜は知られたくなかった」とつぶやく場面。この言葉にはシャーリーのどんな気持ちが含まれているのでしょうか。
この記事では、映画『グリーンブック』の全貌や、ほかの印象に残るセリフや場面についても詳しく解説していきます。
記事の概要
- 映画『グリーンブック』の概要やキャスト
- ドクター・シャーリーとトニーの実話
- 印象的なシーンとセリフを紹介
- 「今夜は知られたくなかった」の意味
- 映画に対する批判や評価
映画『グリーンブック』の概要
- 簡単なあらすじ
- 主要キャスト
- 映画の受賞歴
簡単なあらすじ
『グリーンブック』は、1962年のアメリカを舞台に、ニューヨークのナイトクラブで用心棒を務めるイタリア系のトニー・リップと、天才黒人ピアニストのドクター・シャーリーの南部での演奏ツアーを描いた物語です。
トニーは運転手兼用心棒として雇われ、二人は人種差別が根強く残る南部を巡る旅に出ます。旅の途中で二人は、黒人用旅行ガイド「グリーンブック」を頼りにしながら、多くの困難を乗り越え、深い友情を築いていきます。
このようにグリーンブックは、トニーの粗野な性格とシャーリーの知的な個性という正反対な二人が、互いに影響を与え合いながら成長していく姿が描かれているヒューマン映画です。
主要キャスト
次に、映画『グリーンブック』の主要キャストをご紹介します。
ヴィゴ・モーテンセン
トニー・“リップ”・バレロンガ役を演じたのは、ヴィゴ・モーテンセンです。モーテンセンは、ニューヨークのナイトクラブで用心棒をしていたイタリア系アメリカ人のトニーを見事に演じました。
また『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのアラゴルン役で知られ、過去にアカデミー賞にノミネートされた実力派俳優としても高く評価されています。
マハーシャラ・アリ
ドクター・ドナルド・シャーリー役を演じたのは、マハーシャラ・アリです。シャーリーは、天才ジャズピアニストのシャーリーを見事に演じ、その演技が高く評価されました。
結果として、第91回アカデミー賞で助演男優賞を受賞しました。さらに、アリは映画『ムーンライト』でも同賞を受賞しており、その実力が改めて認められています。
リンダ・カーデリーニ
ドロレス役を演じたのはリンダ・カーデリーニです。彼女はトニーの妻であり、家庭を支える心優しい女性を演じました。カーデリーニは多くの映画やドラマで活躍している女優です。
映画の受賞歴
映画『グリーンブック』は、第91回アカデミー賞で作品賞を受賞しました。また、マハーシャラ・アリが助演男優賞を受賞し、さらに脚本賞も獲得しています。これにより、3部門での受賞という快挙を達成しました。
この映画は、実話に基づいた黒人ピアニストと白人用心棒の友情を描いた感動作として高く評価されました。トロント国際映画祭では一般観客賞を受賞し、多くの映画賞でその素晴らしさを認められています。
ただし、評価には賛否があり、特にスパイク・リー監督をはじめとする一部の批評家からは批判も受けました(批判については、後述します)。
しかし、全体としては、演技力やストーリーの完成度が称賛され、多くの賞を受賞したことから、その価値が広く認められています。
グリーンブックとは?必要性と歴史的背景

グリーンブック(1940年版の表紙) 出典:Wikipedia
グリーンブックとは、1936年から1966年まで発行されていた黒人旅行者向けのガイドブックです。グリーンブックでは、黒人が安全に宿泊や食事ができる施設を紹介されていました。
当時のアメリカでは、特に南部で多くのホテルやレストランが白人専用で、黒人は利用できませんでした。そのため、黒人旅行者はこのグリーンブックを頼りに旅行しました。人種差別が深刻な時代に、安心して旅行するための貴重な情報源だったのです。
公民権法が成立し、人種差別に関する法律が変わった1964年以降、グリーンブックの必要性は薄れ、最終的に廃刊となりました。しかし、その存在は黒人旅行者にとって重要な役割を果たしたと考えられています。
実話をもとにした映画『グリーンブック』

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映画『グリーンブック』は、1960年代に実際に行われたピアニスト、ドクター・ドナルド・シャーリーと彼の運転手兼用心棒、トニー・リップのツアーが基にされています。
ドクター・シャーリーとトニーリップ
映画と実話の違い
実話のその後は?
ドクター・シャーリーとトニーリップ
ドクター・シャーリーは、複数の博士号を持つ天才ピアニストで、カーネギーホールに住み、ホワイトハウスで演奏するなど、その実力は広く認められていました。シャーリーは高い教育を受け、黒人コミュニティと深い関わりを持っていました。シャーリーについては、後の項目でもう少し詳しく述べます。
トニー・リップ(本名フランク・アンソニー・バレロンガ)は、ニューヨークのナイトクラブ「コパカバーナ」で用心棒を務めていました。粗野で無学な彼は、当初は人種差別的な考えを持っていましたが、シャーリーとの旅を通じてその考えを改めていきます。
映画と実話の違い
映画では、シャーリーが家族と疎遠で黒人コミュニティとも関わりが薄いと描かれていますが、実際には兄弟と定期的に連絡を取り、黒人コミュニティとも密接に関わっていたようです。
また、シャーリーがロバート・ケネディに電話して逮捕から解放されるシーンがありますが、実際にはトニーがスピード違反で捕まった際にシャーリーがケネディに連絡し助けを求めたのが事実です。
実話のその後は?
ツアー終了後、トニーは再び「コパカバーナ」に戻り、支配人に昇進しました。その後、俳優としても活動し、『ゴッドファーザー』や『グッドフェローズ』などの映画に出演します。
シャーリーは引き続き音楽活動を続け、2013年に心臓病で亡くなるまで活躍しました。トニーも2013年に82歳で亡くなり、息子のニック・ヴァレロンガは、父親の話を基に映画『グリーンブック』を制作しました。
なぜ、あえて南部へ行ったのか?
ドクター・シャーリーが、人種差別の色濃い南部へと旅立ったのは、決して単なる演奏旅行のためではありませんでした。1962年、そこは黒人であるというだけで、想像を絶する危険が待ち受ける土地。それでも彼がその地でピアノを奏でることを選んだのには、深く、そして強い理由があったのです。
彼の仲間は、その動機を「勇気を示すため」だったと語ります。それは、音楽という万国共通の言語を通じて人々の心に直接語りかけ、根深い差別の意識を内側から溶かしていこうとする、静かながらも揺るぎない挑戦でした。ツアーで待ち受ける数多の困難に屈することなく、ひたすらに音楽の力で聴衆の心を揺さぶろうとする彼の姿は、観る者の胸に深く刻み込まれます。
その決意の背景には、過去の悲劇も影を落としていました。かつてジャズの巨匠、ナット・キング・コールが南部のステージから白人によって引きずり下ろされた事件。シャーリーは、二度とあのような屈辱を繰り返させてはならないという強い想いから、あえて差別の本場で演奏し、一人のアーティストとしての尊厳を懸けてその存在を証明しようとしたのかもしれません。
さらに、この旅は彼自身の魂の救済でもあったのではないでしょうか。白人社会にも、そして黒人コミュニティにも完全には受け入れられず、常に孤独を抱えていたシャーリー。この過酷なツアーは、彼が自身のアイデンティティを確立し、「自分」という存在の確かな輪郭を見つけるための、宿命的な旅路だったとも考えられるのです。
ドクター・シャーリーの南部ツアーは、彼のゆるぎない信念と気高き勇気の象徴となりました。それは単なる音楽の旅ではなく、人種差別という巨大な壁に立ち向かうという、力強いメッセージそのもの。彼の奏でる音色は、同行したトニー・リップはもちろん、時代そのものの心をも大きく揺さぶったに違いありません。
ドクター・ドナルド(ドン)・シャーリーについて
- シャーリーの生涯とキャリア
- 映画での描かれ方
シャーリーの生涯とキャリア
ドナルド・シャーリーは1927年、フロリダ州ペンサコーラで生まれました。幼少期からピアノを学び、9歳でレニングラード音楽院に入学。その後、心理学、典礼芸術、音楽の博士号を取得し、多方面で活躍する天才ピアニストとなりました。
ドナルド・シャーリーは「ドン・シャーリー」の愛称でも親しまれ、その音楽はジャズ、ポップス、クラシックを融合させた独自のスタイルで知られています。シャーリーはホワイトハウスで演奏するなど、その才能は広く認められていました。
映画での描かれ方
画『グリーンブック』の冒頭、私たちが目にするのは、ニューヨークのカーネギーホール上階に居を構える、孤高の天才ピアニスト、ドン・シャーリーの姿です。彼の住まいはまるで王座のように豪華で、その音楽は他の誰にも真似できない輝きを放っています。
物語は、そんな彼が、あえて人種差別が牙をむく南部の地へコンサートツアーに向かう決断をするところから、大きく動き出します。映画は、彼の奏でる音楽が、いかに理不尽な差別に立ち向かうための雄弁な武器であったかを、強く、そして鮮やかに描き出しました。
また、劇中のシャーリーは深い孤独と疎外感に包まれ、まるで白人と黒人のどちらの世界にも居場所がないかのように描かれています。これは映画的な演出であり、実際には兄弟や黒人コミュニティとの繋がりがあったとされています。しかし、この「孤独」の描写こそが、彼が直面した困難と内面の葛藤を浮き彫りにし、その人間性と計り知れない強さを観客の心に深く刻み込むのです。
映画が描くドン・シャーリーの姿は、事実と異なる点はあるかもしれません。しかし、その勇気と信念の物語は、多くの人々の心を揺さぶり、感動を与える力強いメッセージとして、今も輝き続けています。
ピアノ演奏シーンは本人によるもの?
- ドクター・シャーリーは本当に演奏している?
- 演奏シーンの撮影秘話
- ピアニストは誰?
- ピアノメーカーは?
ドクター・シャーリーは本当に演奏している?
映画『グリーンブック』でドクター・シャーリーを演じたマハーシャラ・アリは、実際にはピアノを演奏していません。
映画では、シャーリーが演奏しているように見せるためにさまざまな工夫が施されています。アリはピアノの基本的な動作を練習し、手の動きをリアルに再現することで、視覚的には演奏しているように見せています。
演奏シーンの撮影秘話
演奏シーンの撮影では、細部にわたるリアリティが求められました。マハーシャラ・アリはピアノの基本的な動作を徹底的に練習し、正確な手の動きを身につけました。
これにより、手元のクローズアップシーンでも自然に見えるようになっています。実際の演奏はプロのピアニストによって行われ、アリの演技と編集技術を組み合わせることで、リアルなピアノ演奏シーンが完成しました。
ピアニストは誰?
映画のピアノ演奏を担当したのはクリス・バワーズというピアニスト兼作曲家です。バワーズは、映画のためにドクター・シャーリーの演奏スタイルを研究し、その独特の音楽性を再現しました。
バワーズはまた、撮影時にマハーシャラ・アリにピアノ演奏の所作を指導し、演技が自然に見えるようにサポートしました。彼の音楽的才能と指導力が、映画の演奏シーンのクオリティを高めています。
ピアノメーカーは?

出典:スタインウェイ公式サイト
劇中でひときわ美しい音色を響かせるピアノは、世界最高峰のピアノメーカー、スタインウェイです。これは単なる小道具ではなく、物語の真実性を高める重要な選択でした。
なぜなら、ドクター・シャーリー本人も生涯スタインウェイのピアノを深く愛し、演奏ツアーには必ずそれを指定したと言われているからです。
映画の中で奏でられるスタインウェイの音色は、シャーリー自身の気高い精神や誇りを代弁するかのよう。その音の存在が、彼の演奏シーンをより深く、感動的なものへと昇華させているのです。
これらの要素が組み合わさり、映画『グリーンブック』のピアノ演奏シーンは非常にリアルで感動的なものとなっています。ドクター・シャーリーの音楽が持つ力強さと美しさが見事に表現されており、観客に深い印象を与えます。
印象的なシーンとセリフ ※ネタバレ注意
- 「マットレスに触るな」と言ったのはなぜ?
- ケンタッキーフライドチキンの意味は?
- 「手紙をありがとう」
- 翡翠の石はなぜ重要?
「マットレスに触るな」と言ったのはなぜ?
映画「グリーンブック」の中で、トニーがドクター・シャーリーに「マットレスに触るな」と言ったシーンは、二人が留置所に入れられた場面での出来事です。このシーンでトニーは、シャーリーが留置所のマットレスに触れないよう警告します。この理由は明確には語られていませんが、トニーの気遣いから来ていると考えられます。
トニーは、留置所がいかに不衛生な場所かをよく知っており、清潔を重んじるシャーリーに対して、その環境から少しでも守りたいという思いがあったのでしょう。トニーとシャーリーの間に芽生えた友情の一端が見える瞬間です。
ケンタッキーフライドチキンの意味は?
ケンタッキー州に入った際、トニーがケンタッキーフライドチキンを買ってくるシーンも印象的です。このシーンでは、トニーが「ケンタッキーに来たらフライドチキンを食べなきゃ!」とシャーリーに勧めますが、シャーリーは初めてフライドチキンを食べることに戸惑います。
フライドチキンはアメリカ南部のソウルフードであり、特に黒人文化と深く結びついています。そのため、トニーがシャーリーにフライドチキンを勧める場面は、トニーの無意識の偏見を象徴しているように思えます。
しかし、シャーリーがフライドチキンを食べることで、二人の間の壁が少しずつ崩れていく様子が描かれています。このシーンは、異文化交流と相互理解の象徴とも言えるでしょう。
「手紙をありがとう」
映画のラストで、トニーの妻ドロレスがドクター・シャーリーに「手紙をありがとう」と伝えます。旅の間、シャーリーはトニーのために手紙の内容を手伝っていましたが、ドロレスはそのことに気づいていて、シャーリーに感謝の言葉を伝えたわけですね。
「手紙をありがとう」のひとことには、ドロレスがトニーとシャーリーの間に生まれた友情と信頼関係を理解して喜んでいる様子が伺えます。
翡翠の石はなぜ重要?
映画の中で、トニーが翡翠の石を持ち帰るシーンも重要な意味を持っています。旅の途中で翡翠の石を拾ったトニーは、ドクター・シャーリーに叱られて一度は返すように見せかけますが、実際には石を持ち帰ります。
翡翠は通常、幸運や保護の象徴とされる石です。トニーがこの石を持ち続けたのは、無意識のうちにお守りとしての役割を期待していたからかもしれません。また、翡翠の石をシャーリーが最終的に持ち帰ることになることで、二人の間に芽生えた友情と信頼が示されます。
この翡翠の石は、トニーとシャーリーの旅の中での変化と成長を示す重要なアイテムです。トニーが翡翠を返さずに持ち続けたこと、そしてシャーリーがそれを受け取ったことは、二人の間に築かれた絆の深さを表していると言えるでしょう。
「今夜は知られたくなかった」について
- セリフが表すこととは
- テーマと伝えたいことは?
セリフが表すこととは
映画『グリーンブック』の中で、ドクター・シャーリーが「今夜は知られたくなかった」と語るシーンは、その言葉に込められた複雑な感情が観客に深い印象を与えます。このセリフには、シャーリーが抱える孤独と苦悩が如実に表れています。
この場面は、シャーリーが白人男性とプールで会っているところを警察に見つかり、逮捕されそうになるシーンです。トニーが駆けつけて警察に賄賂を渡し、何とかその場を収めますが、シャーリーは「今夜は知られたくなかった」と打ち明けます。
この「今夜は知られたくなかった」の言葉には、シャーリーが自分の性的指向をトニーに知られたくなかったという意味が含まれていると考えられます。1960年代のアメリカ南部では、黒人に対する差別が根強く残っており、さらに同性愛者に対する偏見や差別も厳しかったため、シャーリーは二重のマイノリティとして生きることを余儀なくされていました。
シャーリーは、差別の中で生きる辛さに加え、自分が同性愛者であることが知られることで、トニーとの友情や信頼関係が壊れてしまうのではないかと恐れていたのかもしれません。また、シャーリーは常に品位を保ち、感情を抑えて生きてきましたが、その仮面が崩れてしまうことに恐怖を感じていたとも考えられます。
さらに、このシーンではシャーリーの孤独が浮き彫りになります。彼は成功したピアニストであり、知識も豊富ですが、その一方で深い孤独感に苛まれていました。トニーという友人ができたことで、その孤独が少しずつ和らいでいく様子が描かれていますが、この出来事で再び孤独を感じさせられる瞬間が訪れます。
このセリフは、シャーリーの内面的な葛藤と、人間としての弱さを示すとともに、彼がトニーとの友情を大切に思っていたかを物語っています。トニーがこの出来事を受け入れ、シャーリーを変わらず友人として扱うことで、二人の絆はさらに深まっていきます。
テーマと伝えたいことは?
以上の内容を踏まえて、この作品が伝えたいテーマについて考察してみましょう。
人種差別と向き合う勇気
『グリーンブック』の主要なテーマは人種差別です。ドクター・ドナルド・シャーリーは、黒人であるために多くの差別に直面します。彼が南部でツアーを行うことは、差別に対する挑戦であり、勇気ある行動の象徴です。このツアーは単なる音楽活動ではなく、人種差別に立ち向かう強いメッセージを含んでいます。シャーリーの行動は、観客に差別の現実を直視し、変化を促すきっかけを提供します。
友情の力
もう一つの重要なテーマは友情です。初めは反目し合っていたシャーリーとトニー・リップが、旅を通じてお互いを理解し、友情を深めていく過程が描かれています。異なる人種や背景を持つ二人が、共に困難を乗り越える中で、偏見を捨て、信頼関係を築いていく姿は、人種や立場を超えた友情の力を示しています。この友情は、観客に対しても大きな感動を与えます。
自己発見と成長
さらに、自己発見と成長も映画の重要なテーマです。シャーリーは、自分のアイデンティティと向き合い、音楽家としてだけでなく、一人の人間として成長していきます。一方、トニーも旅を通じて、黒人に対する差別的な考えを改め、他者に対する理解と共感を深めていきます。二人の成長は、観客にとっても自己反省と学びの機会を提供します。
人間の尊厳と平等
映画を通じて強調されるのは、人間の尊厳と平等の重要性です。シャーリーがどれほどの才能と知性を持っていても、黒人であるという理由だけで不当な扱いを受ける現実が描かれています。しかし、シャーリーは決して屈することなく、自分の価値を信じ続けます。トニーとの友情を通じて、シャーリーは自分の尊厳を守り、同時にトニーも人種に関係なく人々を尊重することの大切さを学びます。
映画「グリーンブック」への批判
- 映画が批判された理由
- シャーリー遺族の抗議
映画が批判された理由
映画「グリーンブック」は、1960年代のアメリカ南部を舞台に、黒人ピアニストのドクター・シャーリーとイタリア系白人運転手トニー・リップの友情を描いた作品です。しかし、この映画は多くの批判を招きました。
まず、多くの批判者は「白人の救世主」的な描写が問題だと指摘しています。白人が黒人を救うという構図が、根深い人種差別の問題を単純化し、白人にとって都合の良い物語になっているというのです。
また、映画は実際の人種差別の深刻さを十分に描いていないと感じられることもありました。特に、差別の描写が現実の残酷さを反映していないとする声が多く、これにより、映画が人種問題を軽視しているとの批判が強まりました。
さらに、映画が現代の人種問題に対して楽観的すぎるという批判もあります。アメリカでは現在もなお人種差別が大きな問題となっており、その現実を直視せず、希望的な描写に終始することで、問題の本質を見誤っているという指摘です。
シャーリー遺族の抗議
映画の公開後、ドクター・シャーリーの遺族からも抗議の声が上がりました。遺族は、映画が事実を歪曲していると非難しました。具体的には、ドクター・シャーリーとトニー・リップの関係が映画で描かれているほど親密ではなかったという点や、ドクター・シャーリーの人物像が誇張されているという点です。
遺族によれば、ドクター・シャーリーは非常にプライベートな人間であり、映画が描くような友情関係は現実には存在しなかったといいます。また、ドクター・シャーリーの性格や行動が過度にドラマチックに描かれており、彼の真の姿が反映されていないと感じているとのことです。
これらの抗議は、映画がフィクションと事実の境界を曖昧にすることで、実際の人物像を誤解させる可能性があることを示しています。遺族の抗議は、映画が描くストーリーと実際の出来事との間に大きな隔たりがあることを強調しており、視聴者に対して、事実とフィクションを区別することの重要性を再認識させるものでした。
感想とまとめ
数ある名場面の中でも、私が『グリーンブック』で心を鷲掴みにされたのは、シャーリーが黒人たちの集うバーで、ショパンの「木枯らしのエチュード」を奏でるあのシーンです。
ピアノの上に置かれたウイスキーグラスを、シャーリーは静かに床へ下ろす。そして、自らのルーツであるクラシック音楽を、彼にしか表現できない音で解き放ちます。その姿は、何物にも屈しない音楽家としての気高いプライドに満ち溢れていました。
そして、その選曲が「木枯らし」であったことに、私はシャーリーの魂の叫びを聴くのです。それは単なる超絶技巧の披露ではなく、彼の内にある厳しい孤独と、それでも決して折れることのない芯の強さを、あの激しくも美しい旋律に乗せていたのではないでしょうか。
私自身、長年クラシックピアノと共に歩んできたからこそ、彼の指先から紡がれる旋律に、言葉を超えた魂の叫びを感じ、深く心を揺さぶられたのです。
『グリーンブック』は、肌の色や育った環境――そうした壁を乗り越えて生まれる人間同士の絆が、どれほど尊く、美しいものであるかを、私たちに静かに、しかし力強く語りかけます。
この感動的な物語を通じて、音楽が持つ偉大な力、そして人と人との繋がりの大切さが、あなたの心にも温かく響くのではないでしょうか。
それでは最後に、この記事でお伝えしてきた大切なポイントを振り返ってみましょう。
記事のポイント
- 『グリーンブック』は、1960年代のアメリカ南部を舞台にした実話に基づく物語
- ドクター・ドナルド・シャーリーは天才黒人ピアニストで、差別が根強い南部でツアーを行う
- トニー・リップは、ニューヨークのナイトクラブの用心棒で、シャーリーの運転手兼用心棒として雇われる
- 二人の旅は、黒人用旅行ガイド「グリーンブック」を頼りにしながら進行する
- トニーとシャーリーは、旅の中で多くの困難を乗り越え、深い友情を築いていく
- シャーリーの「今夜は知られたくなかった」というセリフには、彼の孤独と苦悩が込められている
- 映画では、マハーシャラ・アリがドクター・シャーリー役を演じ、助演男優賞を受賞した
- 映画のピアノ演奏シーンは、プロのピアニスト、クリス・バワーズが担当し、リアルな演技を支えた
- 映画は、第91回アカデミー賞で作品賞を含む3部門で受賞したが、一部からは批判も受けた
- 『グリーンブック』は、人種差別や友情、自己発見と成長のテーマを通じて観客に深い感動を与える作品である
『グリーンブック』のように、ピアノが物語の重要な役割を担う名作は数多く存在します。
心に残るピアノ映画や、音楽がテーマのアニメの世界をもっと深く楽しみたいと思われたなら、ぜひこちらの記事もご覧になってみてください。あなたの好きな作品が、きっと見つかるはずです。
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